環境NPOと連携した体験実習型環境教育の試み
第31回日本環境学会研究発表会口頭発表予稿原稿
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内田晴久、藤野裕弘、隈本純、勝又壽良、北野 忠、室田憲一、藤吉正明、武本匡弘*
東海大学教養学部人間環境学科、*NPO法人パパラギ海と自然の教室
〒259-1292神奈川県平塚市北金目1117 hhuchida@tokai.ac.jp
1.はじめに
持続可能な発展を可能とする上で、環境教育への期待は大きい。ベルグラード宣言、トビリシ勧告に続き、テサロニキ宣言においては、環境教育のあり方から、その実施の意義までが議論され検討されてきた(1)。さらに持続可能な発展を可能にするための環境教育を、いかに実際の教育現場で具体化していくか様々な機関において色々な取り組みがなされてきている。自然環境を意識し、体験し、興味を持たせ、経験を通して知識を増やすとともに、専門性を深め、受身の態度から自主的にかつ積極的に環境の保全にかかわっていくことを目的とし、そしてそれを高等教育レベルでどのように実現し、社会に対してどのような人材の輩出につなげていくべきかを検討することは重要な課題である。
こうした背景の下、本講演では、これまでの一連の環境教育への取り組みを具体化する一例として、本学における専門科目である「環境体験演習」にて、環境教育を目的として掲げるNPO法人との協力体制のもと実施している環境教育事例について報告する。
2.NPO法人パパラギ海と自然の教室
協力体制にあるNPO法人パパラギ海と自然の教室は、神奈川県で最も早く1999年に認定され、神奈川県藤沢市を中心に活動しており、その母体はスキューバを中心とするダイビングショップである。レジャーダイバーのためのダイビングショップで活動するインストラクター達にとって、少なくとも30数年来の経験から、海の中の状況変化は身近な問題となってきている。最近では、サンゴの生育分布の変化のみならず、観察される魚種の変化も含め、静かながらも確実な温暖化の影響を見ることができる。そして廃棄物の散乱も含め、人間活動の影響を自然と直接対比しながら意識する場としてのダイビングが環境教育を目的としたNPO法人設立の原動力となっている。現在、会員数およそ420名、ボランティア140名を抱える法人組織となっており、海岸生物観察会やシュノーケリング教室の開催、学校教育における訪問出前授業、子供や一般社会人に対する環境保全のための啓発活動等、年間を通じて数多くの行事を実施している。母体のダイビングショップは、関東を中心に、9ショップ、海外に1ショップを有し、他のダイビングショップとも連携をとりながら活動を展開している。こうしたネットワークそのものも、NPO活動にとっては安全面での危機管理や人材および機材の融通が容易にできるというメリットとなっている。
3.実施概要
東海大学教養学部人間環境学科では、2001年度に大幅なカリキュラム変更を行い、自然科学と社会科学を融合させた学際領域として、「人間環境領域」を構築した。人間環境領域で開講されている科目は、それぞれの教員の専門分野における重要な事項や最先端の事項について、それらの専門を専攻していない学生にも十分理解できるように工夫された授業が行われており、いわゆる「理系」「文系」の区別なく、より学際的な視点で問題を認識し、解決策を考察できるような科目履修が可能になっている。
人間環境領域の柱となる科目として、「環境学序論」、「環境基礎演習」、「環境体験演習」および「環境専門演習」がある。その中で「環境体験演習」は、学外で様々な体験をすることにより、自らの五感で問題を認識し、それらの問題解決に向けた考察をするものである。設定されているコースは、大学が所有する海洋調査研修船「望星丸」を用いた海洋環境調査、里山の休耕田を利用して稲作を行う農業実習体験、環境教育を目的としたNPO活動におけるボランティア体験、様々な里山の自然を観察する身近な自然観察、廃棄物処理に関する現場見学、介護施設でのボランティア体験等である。
NPO活動におけるボランティア活動体験では、90分3コマの座学に続き、海岸生物観察会、シュノーケリングによる海洋観察、セミナー・講演会等を中心とした活動におけるボランティア体験を4日以上、そしてNPO事務局における実習を加え、途中および学期最後に討論を中心とした学生同士の意見交換会、レポート作成を行うこととしている。開講は年一回春学期(4月~7月)であるが、実習は8月中にも行い最終講義は10月初旬としている。
4.実施の効果
環境教育としての初期段階である実体験と興味関心の醸成にとって、海岸生物観察会もしくはシュノーケリングは、特に学生にとっては非常に有効であり、例え自然環境に対する意識が低いとしても、海岸海中の生物を観察していくことが中心となるため、自ずと知識を増やすきっかけとなる場合が多い。キャンパス内での座学では、専門知識を深めようとも体験を通じて持った興味ほど強い勉学に対するインセンティブはないものと思われる。
NPO活動にとってボランティアの役割は大きく、ボランティア自身の行動そのものが、自然観察会等への参加者に対する自主的かつ積極的な環境保全へ向けた行動となる。生物観察会では、参加者よりもより詳しい知識を有していることが望ましく、数回のボランティア参加を通じて、説明すべき事柄の重要性が身に備わってくると考えられる。
NPO法人の活動自体は、非営利であるものの、会計上の採算性がなければ組織として独立し得ない。それゆえ、事務局での活動も含め、いかに参加者に魅力的な行事を企画し実行するか、運営そのものを体験することもまた学生にとっては非常に大きな体験となる。事務局実習の一環として、将来自分がNPO法人を立ち上げることを仮定したプランを発表させることで、より具体的な活動のあり方と取り組み方、さらには可能性についても専門の立場からの助言を得ることが可能となる。もちろん、提案内容の良い企画に対しては、実現できる可能性も含まれ、学生にとっての実社会体験としての意義は大きい。
生物観察会あるいはシュノーケリング教室といったフィールドワークを実施するうえで最も大きな課題となるのが危機管理であり、参加者の安全の確保である。一般の大学の講義や実習では予期した事態に対してそれなりの準備がなされているが、フィールドワークでは専門家の協力は欠かせない。環境教育の実体験を授業の一環として行っていく上では、ダイビングショップを背景とし、日夜安全確保を最優先している専門家集団の協力を得ることのできるNPOとの協力関係は必要欠くべからざるものであるといえる。
視点を転じて、NPO側からの利点としては、より多くの学生が参加することで、ボランティアの安定的な確保が可能であり、さらに大学との協力活動として、NPO活動の社会へのアピールともなり、その意義は大きいものと考えられる。NPO活動は、ボランティアとともに行事参加者に対して、環境問題への取り組みを促すものであるが、ボランティアに対しても環境教育としての意義は大きく、NPO本来の自然環境に対する社会の意識高揚という目的を果たすための効果的な手段になっているともいえる。
5.課題と展望
NPO法人パパラギ海と自然の教室と協力して実施してきた体験型の授業である「環境体験演習」は幸いにも大きな事故もなく現在、5年目を迎えている。履修学生からの評価は他の講義科目等よりも高く、参加した学生の満足度は高いものと推察される。しかし、当初の目的がどの程度達成されているか、今後しばらく継続しながら学生の卒業後の進路等を踏まえた検証が必要であると考えられる。
体験実習の実施にあたっては、海岸生物観察やシュノーケリングは、短時間での活動は不可能であり、少なくとも終日、場合によっては宿泊型の体験授業となる。それゆえ、土曜日もしくは日曜日、あるいは夏季休暇中の実施が多くなるものの、そのための時間を学期中にいかに確保するかが学生および担当教員にとって大きな課題となっている。さらに、NPO側の行事日程は多く用意されているものの、その中からいずれの日程を学生が選択していくか、計画の策定と調整においても担当教員が間に入り各学生と頻繁に連絡しなければならないことも煩雑な作業となる。
この他、フィールドワークにおいて共通している天候の影響、必要経費の確保なども実施する上での障害となる可能性を有している。 机上の知識のみならず実体験を通じた興味付け、および主体的活動は、環境教育のみならず他の分野においても有効な教育の手法であると考えられる。特に環境教育においては、海を舞台とした活動は若者の興味を強く引きつける要素を持っているものと考えられ、生態系理解への入り口として有効な具体例であると考えられる。
6.参考文献
(1)例えばUNESCO, 1997a Final Report, International Conference
on Environment and Society: Education and Public Awareness for Sustainability,
Thessaloniki, Greece, 8-12 December 1997, EPD-97/.CONF.401/CLD.3 この他The Global
Development Research Center (GDRC) http://www.gdrc.org等にもこれまでの経緯がまとめられている。
(2)室田、藤野、内田、藤吉、廣瀬、落合、NPO自然塾丹沢ドン会、日本環境学会第29回研究発表講演資料(2004)
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