祝島 この海を守りたい
「この海を守りたい」 ~祝島の人々の願い~
◆ はじめに :
山口県の南東部にある柳井市から瀬戸内海に向かって室津半島が延びています。
その岬の先端にあるのが上関町の長島で、長島の南端にある海岸”田ノ浦”に中国電力による原発建設計画が持ち上がったのは1982年、今から29年前の事でした。
そして、この田ノ浦の対岸約3.5kmの所にある島が祝島(いわいしま)です。
私たちがここで起きている問題について具体的に知ったのは、「祝の島(ほうりのしま)」という映画に出会った事から始まりました。
首都圏内に暮らす私たちにとって、人口が過密している大都市周辺には計画が持ち上がりにくい原発やその関連施設の抱える様々な問題は、地域の身近な問題としては捉えにくい側面があるのではないかと思います。
でも想像してみて下さい。決して安全とは言えない(それどころか知れば知るほど危険で恐ろしい・・・)原発が自分の暮らす町や故郷に建つとしたら・・・。
なぜ首都圏に住む人が使用する東京電力が所有する原発が東京近郊ではなく福島や新潟に建てられているのでしょうか・・・?
◆ 祝の島:
祝島は瀬戸内海に浮かぶ周囲12km人口500人程の小さな島です。
島で暮らす人たちは、昔から島ならではの厳しい自然と向き合い、自然の恵みと共に生きてきました。
ところがこの島の人々が暮らす集落の真正面にあたる対岸、田ノ浦に原子力発電所の建設計画が持ち上がったのです。
この映画には、祝島の自然とともにある丁寧な暮らしの営みと「海と山さえあれば生きていける 海は絶対に売れん」と28年間反対運動をし続けている島の人々の生き様が、ありのままに描かれています。
28年もの間、毎週月曜日の夕方に行われている島内デモに参加するおじいちゃん、おばあちゃん、そして犬・・・の姿。(このデモは、今では1080回以上の回数を重ねています。)
海上で船団を組み、中国電力の船に向って抗議する島のおばちゃんたち・・・島の暮らしの営みの中には、人が自然の一部として、自然の循環と共に生き、本気で島の自然を守ろうとしている姿が描かれており、思わずその映像に圧倒されます。
祝島漁協の漁師さんたちは、「海は絶対に売れない!」と10億円以上に及ぶ保証金を一切受け取っていません。
そして島では漁師さんだけではなく、島民の9割が「子孫の為にきれいな海と安心して暮らせる環境を残したい」と原発建設に反対しているのです。
この映画は、決して原発反対の事だけを声高に訴えている訳ではありません。
むしろ映画全体には、ゆったりとした島時間とでもいうような時間が感じられ、思わず優しい気持ちになってしまうほどです。
でも、映画に出演している魅力的な島の人それぞれの姿を観ていると、昔から営み続けられてきたこの島の暮らしを守っていきたいという島の人たちの穏やかな中にも熱く力強い想いに共感し、何とかこの島の暮らしをこのまま残していきたいという気持ちがふつふつと湧き上がってくるのです。
設立10周年を迎えたN.P.Oパパラギ”海と自然の教室”では、本気で海を守ろうとするこの島の人々を少しでも応援することに繋がればという気持ちから、この映画を連続上映することにしました。ぜひお近くの会場へ足をお運びください。
◆ 奇跡の海 長島の自然:
首都圏で暮らす私たちから見れば、自然豊かに感じられる瀬戸内海の中でも自然海岸が残されている地域は、わずか21.4%しかありません。そんな中にあって上関町の長島には、75%もの手つかずの海岸線が残されています。
高度成長期の開発から免れた事によって、50年前のままの瀬戸内海の生態系が、今も残されている”奇跡の海”といわれる海域なのです。
中でも原発のための埋めたて予定地となっている田ノ浦の海岸は、黒潮の流入とずば抜けて豊富な湾内の湧き水により、他にはない独特の生態系が築かれ、
・ 脊椎動物への進化の鍵を握ると言われ、絶滅が危惧されている ナメクジウオ
・ 貝類の進化の分岐点にある ヤシマイシン近似種
・ 日本海の特産種で杉の葉に似た スギモクという海草 の西日本最大級の群生地
など、数々の希少生物を育む場となっています。
また、長島周辺海域は、
・ 水産庁レッドデータブック希少に指定されている スナメリ
・ 国の天然記念物で国際自然保護連合絶滅危惧種の鳥 カムリウミスズメ
・ 国の天然記念物で環境省準絶滅危惧種の鳥 カラスバト
・ オオミズナギドリの世界初の内海繁殖地
であるなど世界規模で見ても貴重な海域なのです。
貴重な生物が生息し、繁殖しているということは、この海域がいかに多様性に富んだ豊かな海であるか・・・という何よりの証拠なのではないでしょうか。
地元の漁師さんたちは、田ノ浦湾を「魚たちのゆりかご」と呼んでいるそうです。ここで生まれる豊かな餌資源があるからこそ多くの鳥やスナメリが生息することができ、漁業で食べていくことも出来る。上関の海は正に「いのちの海」なのです。
すでに沢山の貴重な海岸線をコンクリートで固め続けて、破壊し続けてきた日本。もうこれ以上同じことを繰り返して、海を殺すことは許されないことなのではないでしょうか。
埋め立ててしまってからでは遅いのです。
◆ この海を守る:
「長島の自然を守る会」(代表 高島 美登里さん)は、99年9月に「科学的であること、客観的であること」を念頭に次世代が受け継ぎ、活用できるような調査結果を残す事を任務として結成されました。きっかけは、皮肉にも中国電力の環境アセスメントのずさんさを検証する作業だったと言う事です。
高島さんたちは、中国電力が一日も早く上関原発計画を中止し、貴重な生態系が維持されてゆくことを心からのぞむとともに、エコツアーの催行など原発に頼らない自然を生かした町づくりを目指していく計画を進めているそうです。
◆ 現地を訪れて:
映画「祝の島」と出会い、様々な関連出版物などを読んで、上関原発計画の問題を知った私たちは、いてもたってもいられず現地に向かいました。そして「長島の自然を守る会」を介して現地の調査をしている(株)海藻研究所の新井章吾所長さんと共に、田ノ浦の海に潜る機会を持つ事が出来ました。
実際に潜ってみると貴重な汽水域を持つ田ノ浦の海中は、限られた海域に様々な生物層が見られる正に生物多様性に富んだ海といえる場所でした。
しかし、原発工事の一環として山を削る陸の工事が進められているためか、貴重なスギモクの群生の範囲が以前より少なくなっている姿も目の当たりにしました。
もし中国電力が強行に埋め立ての為の投石を始めてしまえば、ここにある貴重な自然は、全てなくなってしまうでしょう。何としても埋め立て工事を止めなくてはなりません。
祝島の人たちは、中国電力の船や台船を監視し、海上封鎖する為に日々奮闘しています。
そしてこの動きに賛同して結成されたシーカヤックで海上封鎖を手伝う「虹のカヤック隊」には自分も協力したいという若者が地元だけではなく全国から集まってきています。彼らも入れ替わり立ち代り途切れないように陸からの監視と海上封鎖を続けているのです。
◆ 原発のこと、知っていますか?:
広島、長崎に原爆が落とされてから60年余り・・・
放射線被爆による恐ろしさは、誰もが知っている事ではないかと思います。
原発を推進する人たちは、原爆と原発は違う・・・と主張しています。確かに全く同じものとはいえませんが、原爆も原発も共に燃料は、ウランまたはプルトニウムであり、一瞬のうちに燃やす(核分裂させる)のが原爆で、10時間ほどの時間をかけてゆっくりと燃やす(核分裂させる)のが原発だと言う事です。
違うといわれればもちろん確かに違うのですが、原発の技術があれば原爆がつくれるという意味からも、「とても恐ろしいもの」だといえるのではないかと思います。
「核の平和利用」と呼ばれる原子力発電ですが、原子力発電を続けている限り、濃縮ウランやプルトニウムを使って核爆弾を創ることが容易になり、新たな核保有国となる国が出てくる可能性をも高めているのです。
またひとたびチェルノブイリ原発のような事故が起これば、沢山の人が様々な被曝災害を受けるのはもちろんのこと、原子力発電所や再処理工場内の日常的な作業でも内部で働く労働者が被曝する可能性が高いという事実があるのです。
地震の多い日本では、大地震による被害も計り知れません。
更には、原発で作られるのは、「電気と廃熱と放射能のゴミ」と言われており、発生した熱のうちの3分の1しか電気には利用出来ず、3分の2は廃熱、そして放射性廃棄物になるといわれています。
この放射性廃棄物は、何千年もの間、放射能を出し続けるといわれていますが、その処理方法はまだ確立されていません。廃棄しようにも捨てようがないのです。(これを例えて”トイレのないマンション”と呼んでいるそうです。怖いですね…)
そして、炉から排出される温排水や大気中に流れ出る放射性廃棄物の一部は、空気や海を間違いなく汚染していくでしょう。
莫大な費用をかけて創られた原子力発電所自体も40年ほどしか稼動出来ず、建物全体も放射性物質になっていくため、廃炉になった後の安全な解体方法も見つかっていません。
知れば知るほど何もかもに問題が山済みの原子力発電・・・それでも原発は必要なものなのでしょうか?
原発がないと電力は足りなくなり、停電してしまうのでしょうか?
◆ 持続可能な方法を探る:
みなさんもご存知の通り、地球温暖化は大きな問題であり、世界中でCO2 の削減が叫ばれています。
電力会社は、原発は地球温暖化の防止に有効だと説明していますが、それは本当なのでしょうか?
実際は、発電自体ではCO2 の排出が少ないものの総合的に考えるとちっとも温暖化対策にはならないそうです。
ですから、温暖化に対しては、低炭素社会よりも、低エネルギー社会への移行を進めるべきだという意見があります。
皆が脱浪費の認識を持てば、エネルギーの消費はもっともっと抑えられるようになるからです。
そしてその上で、日本ならではの地勢、自然を生かした自然エネルギーを有効に使用していく事が効果的だといわれています。日本には山岳地帯が多く、急流の河川も沢山あります。有名な鳴門の渦潮などの潮流を利用した海流、潮流発電を目指す事業もすでに動き出しています。
自然エネルギーへの移行を先導しているのは、ヨーロッパの国々です。
ヨーロッパでは2050年までに、ヨーロッパ全体の電力を自然エネルギーだけで100%カバーできるというシナリオがすでに発表されているのです。
日本でも単純計算では、国土の5%を太陽光に利用すれば、日本のエネルギーは賄えるということや、千葉県銚子沖の洋上に風力発電を並べれば、日本の電力の95%を賄えるという試算、北海道なら風力発電だけで日本の電力を賄える可能性があるというデータが発表されています。
残された課題は、いつまでにどうやってそれを実現するかだけなのです。
◆ 祝島発 自然エネルギー:
祝島では、今、エネルギー自給率100%を目指すプロジェクトがスタートしています。
これは、島民の9割が加わる「上関原発を建てさせない祝島島民の会」と東京のNGO「環境エネルギー政策研究所」が手を組んで進めているもので、太陽電池の設置等の実現に向けて「一般社団法人 祝島千年の島づくり基金」(会長:山戸貞夫さん)という新組織を立ち上げ、企業やアーティストから特定商品の売上げの1%を寄附してもらうプログラム「1% for 祝島」をスタートさせるということです。持続可能なエネルギーで島が自立する事で原発計画を止める事に繋がれば・・・という想いで始まったこのプロジェクトを、是非多くの人に知って頂いて応援したいと思います。
◆ 最後に:
人間にとっての豊かさとは、どんな事でしょうか?
昼も夜もないほど明るい照明に照らされ、物やお金に溢れている事に、どれほどの価値があるのでしょうか?
祝島に住む人々から、豊かな自然と共にある暮らしの営みを奪う権利など誰にもないはずです。
「海は売れん、お金で魂は売らない」という祝島の人たちの熱く強い意志を決して無視する事は出来ないと思います。
原子力発電の推進は、国策だと言われていますが、世界の潮流は、再生可能な自然エネルギーへとシフトしつつあります。瀬戸内海に残されたわずか2割しかない自然海岸を埋め立て、安全性に確証の持てない原発を立てるという地元に深い対立を残すこの事業を、ぜひとも止めたいと思います。
現状を知った今、もう決まった事だから・・・電気は必要なものだから仕方がない・・・とはどうしても思えません。
次の世代に負の遺産を残したくないという思いから立ち上がった若者たちを始め、現地の人たち以外にも多くの人たちが、原発反対の動きを支援しています。10代を中心とする若者5名は、1月21日から「上関原発予定地の埋め立て工事の一部中止と埋め立て許可の再検討」を求める為に山口県庁で身体を張ってハンガーストライキをしました。
今ならまだ間に合うかもしれません。どうかそれぞれが自分の出来る方法で応援して下さい。(まずは映画や本等を通して知る事、そしてこの事について話す輪を広げていく事、そして署名や意見書、抗議文提出等の行動など・・・)
もし、この計画を止めることが出来、上関の海を始めとする自然を今のままの姿で守る事が出来たなら、何かが変わっていく気がします。小さなチョウたちの羽ばたきが大きな風の流れを生むように、良い方向への大きな流れが生まれる・・・そんな希望が持てると思うのです。
水中撮影■武本 匡弘
<関連ホームページ>
・ 上関原発を建てさせない祝島島民の会
・ 長島の自然を守る会
<現地の情報を伝えるブログ>
・ 祝島島民の会ブログ
・ 虹のカヤック隊ブログ
<参考文献>
・ Actio 2010年12月号 <特集> エネルギーシフト [発行:一般社団法人 アクティオ]
・ 隠される原子力 核の真実 ~ 原子力の専門家が原発に反対するわけ 小出 裕章<京大原子炉実験室>[創史社]
・ 危機に瀕する長島の自然 上関原発予定地および周辺の生きものたち [発行:長島の自然を守る会]
・ 原発列島を行く 鎌田 慧 著[集英社新書]
・ 国策の行方 上関原発計画の20年 朝日新聞山口支局 編著[南方新社]
・ 知ることからはじめよう ~ beyond the nuclear age ~ [一般社団法人 スロービジネスカンパニー]
・ 知ることからはじめよう2 ~ 原子力発電がとまる日 ~ [一般社団法人 スロービジネスカンパニー]
・ 新版 原発を考える50話 西尾 漠 著[岩波ジュニア文庫]
・ 写真集 中電さん さようなら ~ 山口県祝島 原発とたたかう島人の記録 ~ (写真と文)那須 圭子[創史社]
・ DAYS JAPAN (2009年11月号) 祝島 原発を拒否する人々 [発行:株式会社 ディスジャパン ]
・ DAYS JAPAN(2010年12月号) 原発で消える海 [発行:株式会社 ディスジャパン ]
山口県上関町 田ノ浦ツアー
日 程
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2011年
3月 11日(金)~13日(日) 7月 30日(土)~31日(日) |
最少催行
人数 |
未 定
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お申込
|
0466-26-6101 NPOパパラギ |
瀬戸内海上関と祝島ツアー (カンムリウミスズメと上関の生物多様性 国際シンポジウム参加ツアー)
日 程
|
2011年 4月 10日(日)~12(火)
|
費 用
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¥12,000
|
お申込
|
0466-26-6101 NPOパパラギ |
備 考
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